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最高裁判所第三小法廷 昭和59年(行ツ)272号 判決 1985年7月16日

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人折田泰宏、同在間秀和、同武村二三夫の上告理由について

一  原審の適法に確定したところによれば、(1) 大津市は、ガス事業法にいう一般ガス事業者として、通商産業大臣(以下「通産大臣」という。)の許可を受け、ガスを供給する事業を営んでいるものであつて、ガス料金その他の供給条件につき、供給規程として大津市ガス供給条例を制定し、同法一七条に基づき大阪通商産業局長の認可(同法五二条及び同法施行令七条により、同法一七条及び二〇条ただし書に規定する通産大臣の権限は通商産業局長に委任されている。以下同じ。)を受けている、(2) 同法二〇条により、一般ガス事業者は、右認可を受けた供給規程以外の供給条件によりガスの供給をしてはならないが、特別の事情がある場合において通産大臣の認可を受けたときはこの限りでない旨規定されているところ、被上告人大津市水道・ガス事業管理者(以下「被上告人管理者」という。)は、昭和四九年四月一日から同五四年三月三一日までの間、被上告人日本電気ホームエレクトロニクス株式会社(以下「被上告人会社」という。)との間で、大津市ガス供給条例と異なる供給条件によりガスを供給することを内容とするガス需給契約(以下「本件契約」という。)をほぼ一年毎に締結し、これに基づき同社に対してガスを供給していたが、本件契約については、その都度同法二〇条ただし書に基づく通産大臣の認可を受けていた、(3) 本件契約は、大津市が大口需要者の使用を増進させ、かつガス事業を健全に発展させるため、被上告人会社に申し入れて締結されるようになつたものであり、その内容は、一定範囲内の使用量についてのガス料金は大津市ガス供給条例所定の料金より低額とされている(以下これを「特別料金」という。)が、他方、責任使用量の定めがあつて、たとえ現実の使用量が責任使用量に達しない場合であつても、被上告人会社は責任使用量に相当する額の料金の支払義務を負担することになつており、また、需給契約量を超過して使用した場合には、その超過分については特別料金の適用がないことなどを基本としており、必ずしも被上告人会社に一方的に利益になる契約ではなく、大津市のガス事業の安定にも寄与している、(4) 大津市ガス供給条例中には、昭和二六年ころから「本市は、特別の事情がある場合には、大阪通商産業局長の許可を受けて、この条例以外の供給条件によることがある。」旨の規定(以下「特別供給規定」という。)が存するが、本件契約の内容である供給条件についての具体的な定めはない、というのである。

二  原審は、右事実関係に基づき、地方公共団体の経営するガス供給事業については、ガス事業法が地方自治法の特別法として適用されるものとの法解釈のもとに、本件契約は、被上告人管理者が契約締結権限に基づき被上告人会社と締結したものであつて、大阪通商産業局長が特別の事情がある場合としてガス事業法二〇条ただし書に基づいて認可したものであるから、たとえ本件契約上の特別料金が条例によつて定められたものでなく、かつ、条例の定めと異なるところがあつても、違法無効の問題は生じないものであり、本件契約は有効である、と判断している。

三  ところで、ガス事業法は、「ガス事業の運営を調整することによつて、ガスの使用者の利益を保護し、及びガス事業の健全な発達を図るとともに、ガス工作物の工事、維持及び運用並びにガス用品の製造及び販売を規制することによつて、公共の安全を確保し、あわせて公害の防止を図ることを目的とする」法律であつて(同法一条)、ガス事業を地方公共団体が経営する場合において、当該地方公営企業に置かれる管理者が組織的にいかなる権限を有するかは、地方公営企業法及び地方自治法によつて規律されるものであり(地方公営企業法六条参照)、ガス事業法の規律するところでないことは明らかである。そして、地方自治法は、普通地方公共団体は同法二三八条の四第四項の規定による許可を受けてする行政財産の使用又は公の施設の利用につき使用料を徴収することができる旨(二二五条)、及び使用料に関する事項については条例で定めなければならない旨(二二八条一項)を規定しているところ、地方公営企業法は、地方公営企業の用に供する行政財産を使用させる場合に徴収する使用料に関する事項については管理者が定める(同法三三条三項)、と規定しているのみであるから、地方公営企業の給付に対する対価としての料金に関する事項は、右地方自治法の定めるところにより、条例で定めなければならないものと解するのが相当である。してみると、地方公営企業の管理者は、当該地方公営企業の業務の執行として供給契約を締結する場合、使用料に関する事項については、条例で定められたところに従つてこれを締結する義務があるものといわなければならない。もつとも、原審の確定した前記事実関係によれば、大津市ガス供給条例中には、昭和二六年ころから「本市は、特別の事情がある場合には、大阪通商産業局長の許可を受けて、この条例以外の供給条件によることがある。」旨の特別供給規定が存するというのであり、右規定は、ガス事業法二〇条ただし書に基づく認可がある場合の特別供給を規定していると認められるものであるから、これによれば、大津市ガス供給条例は、同法二〇条ただし書所定の要件に該当する場合に限り、同条例で定めた以外の供給条件によりガス供給契約を締結することを管理者に対して認めているものと解される。

そこで、右特別供給規定の効力について考えるに、ガス事業法においては、ガスの料金その他の供給条件について供給規程の認可基準を定め(一七条二項)、一般ガス事業者は右認可を受けた供給規程以外の供給条件によりガスを供給してはならない旨を定めていること(二〇条本文)に照らして、その例外として定められている、同法二〇条ただし書に基づく特別の事情がある場合の特別な供給条件の認可は、かかる供給を許しても同法一七条二項の規定に違背しないものと認められるような場合に限られるものと解せられるのであつて、その要件は合理的に解釈することが可能であるから、ガス供給事業を経営する地方公共団体が、その条例において、右ガス事業法二〇条ただし書所定の要件に該当する場合に限り、条例以外の供給条件によりガス供給契約を締結することを管理者に委ねる趣旨の特別供給規定を設けたとしても、これをもつて使用料に関する事項を条例事項としている地方自治法二二八条一項の規定に違反したものということはできず、右特別供給規定を無効であると解するのは相当でない。

そうすると、原審の確定した前記事実関係のもとにおいては、本件契約は、ガス事業法二〇条ただし書所定の特別の事情がある場合として大阪通商産業局長の認可を受けたものである以上、大津市ガス供給条例に基づかずに締結されたものということはできないことが明らかであつて、これを無効のものということはできないというべきである。

四  以上によれば、原判決が、ガス料金に関してはガス事業法が地方自治法の特別法として適用されるとした点は誤りであるが、本件契約を有効とした判断は結論において正当であるから、原判決に所論の違法はないものといわなければならない。論旨は、採用することができない。

よつて、行政事件訴訟法七条、民訴法四〇一条、三九六条、三八四条二項、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安岡滿彦 裁判官 伊藤正己 裁判官 木戸口久治 裁判官 長島 敦)

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